お墓には、家名やお題目などの文字が刻まれています。
近年では墓石のデザインもさまざまで、彫刻されている言葉も多様になりましたが、どのように決めてよいのか分からない方も多いでしょう。
本記事では、墓石文字のタブーやルールについて解説します。
宗派による違いや費用、注意点も合わせてご覧ください。
目次
<墓石文字とは>
墓石文字は、追悼の意味を込めるだけでなく、信条や宗教を表すための大切なものです。
家名を刻むのが一般的でしたが、最近では故人が好んだ言葉やイメージする文字を選んで彫る傾向があります。
厳しいルールがある印象の墓文字ですが、時代の流れと共にお墓に対する考え方も変化しつつあります。
-歴史
墓は故人に対する敬意を表すだけでなく、残された家族との絆を維持するために必要なものとされてきました。
江戸時代には檀家制度により墓を建てる習慣がつきましたが、個人墓が主流であり、現在のような家墓になったのは明治以降と言われています。
昭和30年代の高度経済成長期には、地方から仕事で都心に住み移る人が増え、地元とは別に墓を建てるようになってきました。
故人やご先祖様のために墓を建てる習慣が広まり、墓文字も家名から故人名、現代のように好きな言葉を彫刻するようになったのです。
-ルール
墓石文字については明確なルールはなく、書体や彫刻に関しても好きに選ぶことができます。
しかしながら、通例や決まりのようなものはありますから注意が必要です。
どの書体を使っても構いませんが、略字や俗字で入れるのはタブーとなり、正字で彫られえます。
宗派や霊園によっては、決められたルールがある場合もありますから、建立の際には確認しておきましょう。
<位置ごとの一般的な墓石文字>
大切なお墓を建てるのですから、見栄えだけでなく故人への敬意も込めて考えるべきでしょう。
ここでは、位置ごとに刻む墓石文字の傾向を解説します。
和型墓石と洋型墓石で傾向が異なるため、その点もぜひ参考にしてください。
-棹石の正面
お墓の正面は住宅でいうと玄関にあたり、来訪者が一番先に目にする場所でもあります。
左右からお参りする人はいませんから、正面には誰が見てもわかるような文字が刻まれています。
家名や宗派によるお題目などを入れるのが一般的です。
地域によっては「屋号」を刻むところもありますが、家名がわかるようになっています。
洋型墓石には家名だけでなく、名前や愛称・単語やメッセージなども入れられます。
個性が出しやすく、多様性に優れているのが特徴です。
-棹石の右側面
右側面には戒名や没年月日、俗名・享年などを刻むのが一般的です。
3〜4人程度彫ることができますが、必ずしも全員の名前を刻む必要はありません。
字体やデザインも自由で、絵を彫りこんだりすることもできます。
洋型墓石は和型墓石のように何段も台を重ねることがないため、竿石の台部分に刻むこともあります。
-棹石の左側面
建立者名と建立年月日が彫られるのが一般的で、家族全員で資金を出した場合には、全員の名前を刻むケースもあるようです。
故人の法要日やメッセージを刻むこともあります。
-棹石の側面
側面には戒名や没年月日、俗名・享年などの亡くなった方の情報、建立者名と建立年月日などのお墓を建てた方の情報を刻むケースが見られますが、地域や棹石の形によって異なります。
基本的にはお墓のどの部分に何を記載するかの決まりはなく、さまざまな形態が存在します。
たとえば、家族全員で資金を出した場合には、建立者名に全員の名前を刻むケースもあるようです。
また、故人の法要日やメッセージを刻むケースもあります。
ただし、宗教によって決まりがある場合もあるため、注意しましょう。
-棹石の裏面
棹石の左右になにも刻まない洋型墓石では、裏面に建立年月日や建立者名とお題目を刻むこともできます。
どこに何を刻むのかは、建立した人が自由に決められますが、お寺や霊園によっては決まりがありますから確認するのが良いでしょう。
<墓石文字としてタブーな言葉>
お墓参りする方々が不快な気分になってしまうような言葉や、故人への敬意が感じられない文字はタブーとされています。
自分たちが気にならなくても、業者からタブー文字であると断られるケースもあります。
自由だからとタブーな言葉を選んでしまえば、恥ずかしい思いをするのは自分です。
常識内で彫刻できるように、タブーな言葉について知っておきましょう。
-忌み言葉
故人が亡くなり悲しむのは家族だけではありません。
友人や恩師、会社関係などでお世話になった人達などが、お墓参りにきてくれるでしょう。
その人たちが手を合わせて故人の冥福を祈るお墓に、心無い言葉や不吉を思わせる、ネガティブな言葉が刻まれていたらどう感じるでしょうか。
「親しき中にも礼儀あり」です。
会話の中でジョークとしてとらえられる言葉も、一度刻まれてしまうと取り消しができません。
家族はもちろんですが、周囲が不快に感じるような言葉は使ってはいけません。
お墓では以下のような言葉が、忌み言葉として避けられます。
● 苦しむ
● 辛い
● 失う
● 切れる
● 終わる
彫刻しようとした言葉にこれらが含まれる場合は、別の表現やメッセージに変更しましょう。
-著作権がある言葉
故人が好きだったアーティストの曲名や歌詞の一部を、お墓に刻んで供養したいと考える人もいますが、著作権に関わる文章は使用できません。
音楽だけでなく文学やデザインなども同じです。
著作権がきれているものやフリーであれば問題ありませんが、現行の場合には法律的なトラブルに発展する可能性があります。
最悪の場合、文字を削るだけでなく墓の取り壊しを裁判所から命令されてしまいますので、文字を決める際には十分に注意をしましょう。
-意味を複数持つ言葉
言葉には複数の意味があり、小説や随筆などでは心情を表現するために「曖昧な表現」として使われる言葉があります。
「うたかたの恋」や「うたかたの夢」など、日本文学や音楽にも多く登場する情緒的な言葉ですが、墓石文字としてはタブーに近く、よくありません。
文学的には「泡のように儚い」と表現すれば、情緒的ではありますが、若くして亡くなられた方のお墓には不向きです。
そうでない場合でも、命を軽んじる表現であると受け取ってしまう人もいますから注意しましょう。
<宗派によって異なる墓石文字>
ご家庭によっては特定の宗派に属していない、無宗教であるケースも少なくはありません。
地元にお墓がある場合や法事のときに決まったお寺に法要を依頼している場合には、仏教徒であり特定宗派の信者になります。
墓石文字にルールはなく、宗派ごとにタブーの文字はありませんが、宗派ごとにお題目が異なるように、使われる文字にも違いがあります。
先祖代々のお墓や仏壇のお位牌をみれば、自分の家がどの宗派であるかがわかりますので、調べておきましょう。
-浄土真宗
罪を犯した極悪人であっても仏を信じ、「南無阿弥陀仏」の念仏を唱えれば極楽浄土にいけると親鸞聖人が説いています。
東の大谷、西の本願寺でも有名で、阿弥陀如来の第十八願のみを信仰しています。
阿弥陀如来の力をもって浄土に導いてもらうため、他力本願とも呼ばれているのも有名な話です。
あくまでもお墓は、故人を偲ぶためのものであり魂が帰依する場所とは考えていません。
「南無阿弥陀仏」や「倶会一処」を彫刻します。
-浄土宗
浄土宗は法然によって開祖され、弟子でもあった親鸞の没後に浄土真宗として独立しました。
浄土真宗との違いは、ひたすらに念仏を唱えることによって仏の救済を受けられるところです。
「南無阿弥陀仏」や「梵字」が彫られることもあり、墓の形やデザインなどは自由に決められます。
-天台宗
中国が発祥の大乗仏教であり、最澄によって日本に広まった仏教です。
天台宗では、生物はすべてが仏になる可能性があると説いています。
釈迦牟尼仏が、救済のために姿かたちを変えて現れるとの考えのため、墓石の形や文字にこだわりはありません。
「南無阿弥陀仏」や「南無釈迦牟尼佛」、家名を入れることが多いです。
-曹洞宗と臨済宗
禅宗である曹洞宗と臨済宗は、墓石に円相を刻んだり塔婆のいちばん上に描いたりすることがあります。
悟りや宇宙など「この世の心理」と呼ばれるものを円相と呼び、「〇〇家先祖代々」の頭に刻むのが一般的です。
「南無釈迦牟尼佛」がお墓に刻まれることもあります。
<墓石文字の費用相場>
墓石文字に理解が深まったところで、気になるのが費用ではないでしょうか。
新たにお墓を建てる場合はもちろんですが、文字だけを入れる相場はわかりにくいものです。
墓石文字の相場を知っておけば、将来的に必要な料金を準備しやすくなります。
-新たにお墓を建てる場合
石材店によって、面や文字数で計算するなど方法が異なります。
文字以外でイラストを彫刻する場合には、追加料金がかかるケースもありますので、詳細をしっかり確認しておきましょう。
文字代金が別に設定されている場合、平均的に8〜10万程度と考えておきましょう。
墓石は文字を刻んでも、「魂入れ」が行われなければただの石でしかありません。
一般的には、彫刻を施した墓石を建てた後で、自分たちが信仰する宗派のお寺に依頼して魂入れを行います。
-文字を追加する場合
墓石から「魂抜き」を行ってから文字を彫り入れ、作業終了後には「魂入れ」が行われます。
彫刻は区画内で行われるのが一般的ですが、機材が持ち込めない場合は、石材店に持ち込み彫刻した後に戻します。
石材店への搬送代やお布施、御車代も含めて5.5〜12万円が相場です。
1文字単価設定が一般的ですが、見積もりを頼んで確認してください。
-文字を修正する場合
文字を修正する場合には、削り取るか研磨してから正しい文字を彫刻しなければいけません。
通常に彫るよりも時間と手間がかかるため、費用も高くなりますし、墓石を磨いたり削ったりするため、墓石の大きさが変わってしまいます。
修正することによって、墓石の雰囲気が変わってしまうことや高額な費用がかかることを考えると、文字修正がないようによく確認してください。
費用相場は、お布施などを含んで12.5〜34万円になります。
-文字を塗り直す場合
墓石の文字は彫ったままにしておくのが一般的ですが、関西では白文字、関東は黒文字が主流で九州方面では文字を金色にする傾向があります。
このように地域によって文字を入れているお墓は、経年劣化によって文字が剥げてきます。
ホームセンターで道具を購入し、自分で手直しもできますが、石材店に依頼した方が仕上がりはきれいです。
依頼する場合には、魂抜きと魂入れが必要になりますから、相場としては3.5〜10万円と覚えておきましょう。
<墓石文字を刻むときの注意点>
墓石に間違って文字を刻んでしまうと、修正には時間と費用がかかってしまいます。
また、墓地や霊園の規定に反しているなど、ある程度のルールやタブーを頭に入れて墓石文字を入れましょう。
具体的にどのようなことに注意すればいいのか、ここでは2つの注意点について解説します。
-誤字
墓石文字のタブーに気を取られてしまうと、間違うはずのない苗字を正字にしていなかったり、戒名に誤字があったりします。
戒名は旧字と新字体でトラブルが多い誤字ですから、家族や親族と何度も確認し間違いがないかチェックしてください。
普段使っている漢字と戸籍上のものが異なるケースもありますから、戸籍を確認し正しい文字で入れられるようにしておくと良いでしょう。
普段は意識をしていない家紋は間違えやすいため、必ず親族に確認するなどして誤りが無いようにします。
着物は裏紋や女紋を使うこともありますから参考にはなりません。
親族の墓に入っている家紋と、聞いたものが一致するかを確認してから彫ってもらうようにします。
-宗派や墓地の規定
宗派や霊園によっては一定の規定がありますから、それに応じて文字入れする必要があります。
大きなタブーはありませんし、法的に問題はありませんが、お墓を建てる土地を使うためにはルールは守らなければいけないでしょう。
霊園によっては既定の石材店を使うようなルールがあり、墓石のデザインやサイズには
制限が設けられています。
墓石を決める前に、お世話になるお寺や霊園にはどのようなルールがあるのか、タブーとなる文字などはないかを調べておくようにしてください。
<まとめ>
お墓は受け継がれていくもので、墓文字は信仰のあらわれであり故人を偲ぶために刻みます。
自由に言葉を選べるとはいっても注意は必要で、タブーな言葉は入れない、宗派や墓地の傾向に寄り添い慎重に決めていきます。
日常的に目にする機会がなく、深く考えることが少ない墓石文字には、慣れないこともあり、わからないことも多いでしょう。
佐藤石材工業では、多忙な方のためにリモート相談サービスも行っています。
墓石文字のタブーや費用について知りたい、調べておきたいなどがあれば、気軽に問い合わせてください。
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